釧路地方裁判所 昭和51年(行ウ)2号 判決 1988年3月29日
原告
益井愛人
右訴訟代理人弁護士
今重一
同
今瞭美
被告
北見税務署長
林繁男
右指定代理人
小川賢一
外六名
主文
原告の請求をいずれも棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
事実
第一 当事者の求めた裁判
一 請求の趣旨
1 被告が原告の昭和四三年分の所得税について昭和四六年三月二六日付けでした更正及び過少申告加算税賦課決定(但し、裁決により一部取り消された後の部分)のうち、総所得金額五六万三五五七円、納付すべき税額一万三四〇〇円、過少申告加算税一〇〇円を超える部分を取り消す。
2 被告が原告の昭和四四年分の所得税について昭和四六年三月二六日付けでした更正及び過少申告加算税賦課決定のうち、総所得金額六七万四七二六円、納付すべき税額二万九五〇〇円、過少申告加算税九〇〇円を超える部分を取り消す。
3 訴訟費用は被告の負担とする。
二 請求の趣旨に対する答弁
主文同旨
第二 当事者の主張
一 請求原因
1 原告は、北見市において食料品・酒・煙草・雑貨の小売業をスーパーマーケット形式で営むいわゆる白色申告者であるが、昭和四三年分及び同四四年分の各所得税について、原告のした各確定申告からこれに対する被告の各更正及び過少申告加算税の各賦課決定(以下、右確定申告を「本件各確定申告」と、右各更正を「本件各更正」と、右過少申告加算税の各賦課決定を「本件各賦課決定」と、本件各更正及び本件各賦課決定を総称して「本件各処分」という。)並びに原告の異議申立てについての各決定、国税不服審判所長がした各審査裁決に至る経緯は別表一記載のとおりである。
2 しかしながら、被告がした本件各更正(昭和四三年分については前記審査裁決により維持された部分。以下同じ。)のうち昭和四三年分については、総所得金額五六万三五五七円及びこれに基づいて算出された納付すべき税額一万三四〇〇円、同四四年分については、総所得金額六七万四七二六円及びこれに基づいて算出された納付すべき税額二万九五〇〇円(以下「原告自認の総所得金額及び納税額」という。)を超える部分は、次の各点で違法であり、これを前提としてされた本件各賦課決定のうち昭和四三年分過少申告加算税一〇〇円、同四四年分過少申告加算税九〇〇円(以下「原告自認の過少申告加算税額」という。)を超える部分も違法である。
(一) 本件各更正は、国税通則法一六条一項一号、二四条に違反して適法かつ充分な調査に基づかずになされており、違法である。
すなわち、本件調査が、調査の合理的な必要がないのにされている点、調査の理由が開示されないままに実施されている点、原告が本件調査に誠実に対応しようとしており調査継続が可能であつたのに係官の独断で一方的に打切られている点、また、本件調査が申告納税方式を原則とする所得税に対するものであるから申告に具体的誤りがあるか否かという点について調査を実施すべきであるのに、原告に対する更正の前提要件(理由)作りのため単に形式を整えるためにのみなされた実質的には調査の名に値しないものであつた点等いくつもの違法があり、かかる違法な調査に基づいてなされた本件各更正も違法であることを免れないものである。
(二) 本件各更正は推計によりされたものであるところ、推計の必要性及び合理性がないのにされた推計課税であるから、違法である。
(三) 本件各更正のうち原告自認の総所得金額を超える部分は、これを過大に認定しており、違法である(なお、原告の総所得金額は、後記五の4で主張するとおりの理由で、右2のとおりの各額となることが計算上明らかである。)。
(四) 原告の異議申立てにつき、被告は具体的理由を示すことなく異議棄却の決定をしたものであるから、右決定は重大な違法により無効であつて、結局は本件各更正も違法と評価されるべきである。
よつて、本件各処分のうち原告自認の総所得金額及び納税額並びに原告自認の過少申告加算税額を超える部分の取消を求める。
二 請求原因に対する認否
請求原因1の事実は認め、同2のうち、本件各更正が推計課税に基づいたものであることは認め、その余は争う。
三 被告の主張
1 本件各更正に至る経緯
(一) 被告が、原告提出の昭和四三年分及び同四四年分(以下「本件係争各年分」という。)の所得税の本件各確定申告書(いわゆる白色の申告書)を検討したところ、事業所得に関して、昭和四三年分については、収入金額、必要経費、事業専従者控除及び所得金額の各欄の記載があるものの収入金額は四三三万二七六八円と原告の営業規模からみて過少と認められ、昭和四四年分については、事業専従者控除及び所得金額の各欄の記載があるものの収入金額及び必要経費の各欄の記載がないこと、また右各確定申告書に記載された各所得金額は他の同業者に比較して著しく低額と認められたことなどから、被告は、原告の本件係争各年分の各所得金額が所得税法の規定に基づいて正しく申告されたか否かを調査する必要があるものと認めた。
(二) そこで、被告の指示を受けた係官らは、昭和四五年一〇月一六日と同年一一月初旬に二回、調査のために原告宅に赴き、原告の長男益井一昭(以下「一昭」という。)あるいはその妻に、昭和四二年分ないし同四四年分の申告に係る原告の所得金額が著しく低額であると思料されるから調査に来た旨を告げ、帳簿等の提示を求めたが、原告の不在を理由に帳簿等の提示を拒まれ、調査することができなかつた。
さらに、同係官らが、原告の指定してきた同月一八日に、原告宅に調査に赴いたところ、原告は、民主商工会(以下「民商」という。)の学習会と称して同会の事務局員及び同会会員らを同席させ、帳簿等の提示を拒んだばかりか、その場の状況をテープレコーダーで録音し、一昭が同係官らを写真撮影するなどしたうえ、同係官らが帳簿等を提示するよう説得したにもかかわらずこれに応じなかつた。その後も、同係官らは、原告の指定した日など八回にわたり、原告宅に赴き、そのうち四回は原告に面接し、帳簿等を提示するよう説得した結果、同年一二月中旬ころ、ようやく三回にわたつて、原告から、①掛仕入れに関する仕切書及び請求書の一部、②差益金額(売上金額から売上原価を控除した金額)以下を記載した損益計算書(売上金額、売上原価となる仕入金額等の記載はない。)、③昭和四四年分の経費内訳一覧表の提示を受けたが、右提示のあつた資料のみでは売上金額の算定は不可能であり、売上金額、仕入金額、棚卸金額の期首・期末の増減の把握のための帳簿等は再三、再四にわたる説得にもかかわらず、全く提示を受けられなかつたうえ、同係官らの質問に対しても原告は申告を正当とする具体的な答えをしなかつたため、同係官らは、結局、原告の所得金額を実額で算定することができなかつた。原告は、これらの調査においても前記調査と同様、民商会員らを同席させ、原告や民商会員らが、その場の状況をテープレコーダーで録音し、調査と無関係な議論を同係官らに仕向け、酒に酔つて同係官らに「この野郎、ぶつ殺してやる。」などの暴言を吐く者まであり、さらには原告も机の上に立てかけていた帳簿らしきものを手にとつて頭上高く掲げ、その中のページをペラペラとめくりながら「これでも帳簿を見たことになるだろう。」などと揶揄するのみで帳簿等は提示しなかつた。原告は本件調査中、同係官らに対し、執拗に調査の理由、必要性を開示するように求めて、その具体的開示がないことなどを理由に同係官らの調査に応じようとしなかつた。そして、結局同係官らは、これ以上の調査は不可能と判断してこれを断念した。
かくして、被告は、所得税法一五六条の規定に基づき原告の本件係争各年分の各所得を推計により算定し、本件各更正及び本件各賦課決定を行つたものである。
2 税務調査について
国税通則法二四条にいう調査は、課税標準等または税額等を認定するに至る一連の判断過程の一切を意味するものであるが、右調査については何らその手続が定められていないから、調査の範囲、程度及び手段等については、課税庁に広汎な裁量権が認められていると解されるところ、本件においては、前記のとおり、原告宅における数回の実地調査を含め、まさに実質的な調査を行い、この結果を踏まえて本件各更正をしたものである。
なお、原告は、調査の合理的な必要性がなかつたから、適法な調査ではない旨主張するが、所得税法等にいう調査がいかなる場合に許されるかは、法律に特段の規定はないが、少なくとも納税申告が適正であるか否かについて調査する必要がある場合には、これを行うことができると解すべきであり、本件においては、前記のとおり、原告の納税申告が適正であるか否かについて調査する必要があつたものである。
また、原告は、本件調査に際し、被告所部係官らに対し、執拗に調査の理由、必要性を開示するよう求めて、その開示がないことを理由に同係官らの調査を拒否しているが、この点については、既に最高裁昭和四八年七月一〇日第三小法廷決定(刑集二七巻七号一二〇五頁)において明らかにされているとおり、調査の理由、必要性を開示することは、質問検査権を行使するにあたつての法律上の一律の要件でないことは明白であるから、原告の本件調査拒否は根拠のない対応といわなければならない。
3 推計課税の必要性
所得税法一五六条の規定は、何ら手続的要件を定めていないが、一般に推計課税は、①納税者が所得実額算定の基礎となるべき収支を明らかにする帳簿書類を備えていない場合、②これを備えていても、その記載が不備、不正確で信用できない場合、③納税者が調査に協力しない場合等のため、いわゆる実額の把握ができないかまたは困難な場合に許されるものと解されている。しかし、これらの許容条件すなわち推計課税の必要性といわれるものは、更正決定のための法的手続要件となるものとは解しえない。けだし、国税通則法二四条に規定されているとおり、更正処分は納税申告書に記載された課税標準等または税額等が調査したところのそれと異なる場合になされるものであつて、同条は更正処分に実額計算による更正処分と推計計算による更正処分という二種類の更正を認めたものではなく、同条による更正処分はあくまでも一つであつて、推計計算によるか実額計算によるかは、単に課税標準等の客観的額を立証する立証方法の差異にすぎないと解すべきだからである。
仮に、推計課税の必要性を更正処分の法的手続要件と解するとしても、推計の必要性の有無の判断は更正処分時を基準とすべきところ、前記のとおり、本件各更正の調査の際、原告は、売上金額、仕入金額を記帳した帳簿を提出せず、調査に協力しなかつたため、課税標準及び税額の実額を把握することができなかつたのであるから、本件各更正は右手続要件を具備していたものである。
4 推計課税の合理性
(一) 推計課税は、所得金額等の実額が把握できない場合に、所得を推測させる一定の間接的な事実から推計により得られた蓋然的近似値を一応真実のものと認定して課税する制度である。したがつて、推計の合理性のためにあまりに厳格な類似性を要求することは、推計課税を認めた趣旨を失わせることになる。そこで、推計の基礎的要件たる業種の同一性、営業規模の一応の類似性及び平均値算出過程の整合性が認められれば、推計の合理性はこれを認めるべきであつて、当該納税者の個別的条件は、それが当該平均値による推計自体を全く不合理ならしめる程度に顕著なものでない限り、斟酌することを要しないと解すべきである。また、当該納税者と対比すべき同業者の抽出選定に当たつては、その選定数が多数であることが個別事情を捨象するうえで望ましいことはいうまでもないが、当該納税者と地域の近接した地区で正確な資料を有する同業者が僅少な場合は、対比した同業者が二例に過ぎないとしても、その一事から直ちにその推計を不合理なものということはできず、比準同業者との業務形態の類似性の存否、程度あるいは比準同業者から得られる数値による推計を不合理ならしめる程の特殊事情が当該納税者に存するか否か等から推計の合理性の有無を判断するのが相当である。被告は以上のような見地に立つて本件の推計課税を実施した。
(二) 被告が行つた本件推計の計算方法は、推計の基本を売上金額に定め、この売上金額に類似同業者の平均の差益率(売上金額(本件では、雑収入金額を含む。以下同じ。)に対する差益金額の割合)を乗じ、これによつて算出した数額を差益金額と認定したものである。
(三) 原告主張の売上金額を推計の基本としたことについて
一般的に、売上、仕入れは、収支計算をなす上での基本的要素であつて、それ自体他の要素に比較してより安定性があるものであるから、売上か仕入れを推計の基本とし、同業者平均差益率を用いることが、他の方法(経費率、従業員数等の効率員数、棚卸有高による回転率等を基本とする方法)に比し、より高い安定性、合理性がある。
そして、売上及び仕入れに関する実態は、売上は、収支計算上の収入(収益)に当たるから、一般的に自ら過大な記帳や主張をすることはあり得ず、逆に、仕入れは支出(損金又は控除)に当たるから、自ら過少な記帳や主張をすることはあり得ない。したがつて、売上を基本とすれば、推計計算による差益金額は、その基本が過大でないから真実と認められる数額の範囲を超えることは通常あり得ないのに対し、仕入れを基本とすると、これが過大となつても過少となることはないから、真実と認められる差益金額の数額を超える惧れがある。故に、売上を基本とすることの方が、仕入れを基本とするより明らかに安定性、合理性が高い。
また、差益金額の推計の基礎となつた本件係争各年分の売上金額は、本件審査請求の調査、審理の過程で原告が提示した損益計算書記載の金額をもとに算出されたものであるが、右に述べたように推計の基礎となるべき資料は正確なはずである。
(四) 同業者差益率の合理性
(1) 本件推計においては、同業者の差益率を用いているところ、同業者差益率を算定するため、左の諸点を考慮して原告と類似する別表三記載のA及びBの二業者を選定した。
ア 青色申告書を提出し、本件係争各年分につき不服申立て又は訴訟を提起していないものであること。
イ 北見市に所在する食料品小売業者で、原告と同じく酒・煙草の販売も行つているものであること(酒・煙草の差益率が一般商品と異なるため)。
ウ 原告と同じスーパーマーケットによる営業形態のものであること。
エ 住宅地域に店舗を有して立地条件が原告に類似するものであること。
オ 原告の売上金額の0.5倍ないし1.5倍の範囲内の売上があること。
(2) 北見市に所在する食料品小売業者のうち、原告と同様スーパーマーケットによる営業形態をとり、かつ、青色申告書を提出している営業者は、個人八名、法人六社の計一四業者であり、そのうち酒類及び煙草の販売を行つている業者は、別表三記載の業者のうちA、B、C、E、F、G及びH(氏名を公表できないことに基づく便宜上の符号)の七業者であつた。
さらに、別表三記載の各業者について、個別に立地条件、営業規模、その他特殊事情を検討したところ、A及びB以外のC、D(更正処分の段階で採用した同業者で煙草の販売はない。)、E、F、G及びHは立地条件、取扱品目、営業規模、売上金額等のうちいずれかにおいて原告と著しく異なり不適当と認められた。
そして、被告は、右同業者A、Bが営業形態、立地条件及び取扱品目等の点で原告に類似し、営業規模においても原告と大きくかけ離れているとは認められないので、A、Bを採用することが最も合理的であると判断したものであり、A、Bの青色申告決算書に基づく平均差益率(以下「本件平均差益率」という。)は、昭和四三年分については15.61パーセント、昭和四四年分については15.58パーセントである。
したがつて、原告の本件係争各年分の差益金額は、別表二の(一)、(二)の右各年分の売上金額に本件平均差益率を乗じて算出したものとみてよく、その金額はそれぞれ右各別表の差益金額欄記載のとおりである。
5 以上のとおり、本件係争各年分の総所得金額は推計によつて算出したが、その算出根拠は別表二の(一)、(二)のとおりであつて、いずれも本件各更正に係る総所得金額(昭和四三年分は審査裁決により一部取り消された後の額)を下回らず、本件各更正に所得を過大に認定した違法はない。
また、期限内申告書が提出され、更正があつたのであるから、原告は、国税通則法六五条所定の過少申告加算税を納付すべき義務があり、被告は、同条一項によつて別表一の過少申告加算税欄の数額を算出し本件各賦課決定をなしたものである。
6 異議棄却決定の理由附記不備の違法について
異議棄却決定については何ら違法はないが、仮にその手続に違法な点があつたとしても本件各処分の取消事由とはなり得ない。
以上のとおり本件各処分に違法はない。
四 被告の主張に対する認否
1 被告の主張1の(一)の事実のうち、昭和四三年分の原告の収入金額がその営業規模からみて過少と認められたこと、本件係争各年分の各確定申告書に記載された各所得金額が他の同業者に比較して低額と認められたことは知らない。その余は認める。
同1の(二)の事実のうち、被告所部係官らが昭和四五年一〇月一六日を初めとして合計一二回にわたり原告方を訪れ、原告に帳簿書類の提示を求めたこと、その際原告が調査の場に民商会員らを同席させたうえ、その場の状況をテープレコーダーで録音したこと、一昭が同係官らを写真撮影したこと、同席した民商会員らのうち酒気を帯びた者が同係官らに暴言を吐いたこと、原告が同係官らに提示した書類が仕切書、請求書、損益計算書、経費内訳一覧表であつたことを認め、その余は否認する。
2 被告の主張2ないし4並びに6は争う。
3 被告の主張5の事実のうち、本件係争各年分の売上金額、経費、事業専従者控除額、不動産所得金額、給与所得金額、譲渡損失金額が別表二の(一)、(二)記載の各金額であることは認め(但し、昭和四四年分の売上金額については被告主張額より三万一八九五円多い。)、その余は否認する。
五 原告の反論
1 税務調査の違法
国税通則法一六条一項一号、二四条によると本件各更正の前提として「税務署長の調査」が必要とされるうえ、申告納税方式を原則とする所得税にあつては、調査の目的、方法もこの原則による制約を受け、申告について具体的誤りがあるか否かの調査を実施すべきである。
ところが、被告所部の江戸、中谷両係官は、調査の必要性について合理的理由もないのに、昭和四五年一〇月一六日原告方を訪れ、昭和四二年分から同四四年分までの帳簿書類の提出を求めたのを皮切りに、以後昭和四六年二月末日まで約四か月半の間、前後一二回にわたり、原告方への臨宅調査を行つているが、原告に会えるような手段をとつて臨宅したのはうち五回だけである。
江戸係官らは、昭和四五年一一月一八日に至り初めて原告に連絡をとつて原告方に臨宅し、「申告書を出したのが正しいかどうか調査させてくれ。帳簿を見せてくれ。」と述べ、原告の再三の要求にもかかわらず、調査の理由を明らかにせず、以後の臨宅調査においても、江戸係官らは調査の理由の開示を執拗に拒んだ。このように本件調査は、調査に合理的な必要性がなかつたうえ、調査の理由も示しておらず、適法な調査とはいえないだけでなく、原告は、右係官らの態度から、売上金額のトータルを証する資料を明示すると直ちに推計課税をされることを危惧し、理由が開示されるなら必要に応じて資料を提供する旨再三述べているのであり、売上金の明細を証する資料を除き、その余の資料を提示しその会計処理の方法等を説明するなど誠意を示したのであり、原告の右姿勢は本件調査に対する正当な対応であつたにもかかわらず、被告は一方的に調査を打ち切つてしまつたものである。
また、被告所部係官らは、民商会員の立会いを理由に調査を回避しているが、立会いを拒否する理由は公務員の守秘義務に抵触するからというものであるところ、原告に対する質問内容には公務員の守秘義務に触れるものがないことは明白であり、結局、被告所部係官らは、民商会員を嫌忌する余り、同人らが存在するというだけで公務員としての職務遂行を怠つたにすぎない。更に、調査の際に、原告側の立会人の中に酒気を帯びて暴言を吐いた者がいたが、原告らが自主的に排除しており、写真撮影をしたことについては一回だけのことであり、いずれも調査の継続に支障をきたすものとはいえず、原告らから議論をしかけられたということについては、その内容は、調査にあたつて税務職員として採るべき態度及び国税不服審判所の調査・審判にあたつては争点主義により行うこととした国会の附帯決議の解釈を巡つてのものであつて、その原因は被告所部係官らが調査の理由を開示しなかつたためであり、テープレコーダーの録音については、国民が公務員に対する自らの答弁内容を録音し、記録として残すことは正当な権利行使であるから、これを拒否するにはその正当理由を示す義務があるというべきである。したがつて、右各点を理由に被告所部係官らが調査を打ち切つたのは全くの独断にすぎない。
以上のとおり、原告がその所持する帳簿書類を全面的に開示しなかつたのは、唯一被告において調査の理由を具体的に開示しなかつたことによるものである。右調査自体は、任意調査ではあるが納税者に対し不利益な処分を課することもあり得るので、客観的な正当理由を必要とし、かつ、その理由は開示されるべきものであることは明らかである。すなわち、調査の際に発せられる質問に対し、これに答えない場合には、処罰の対象にされ(昭和五五年法律第八号による改正前の所得税法二四二条八号、二三四条一項一号)、また調査非協力を理由として推計による更正処分をされることもあるからである。こうした不利益を課す前提となる以上、調査や質問検査の必要性について理由を開示するのは公務員の権限行使に当つて当然要求されるべき事柄であり、これがないまま質問を発し、これに答えないからとして、調査非協力、あるいは調査の拒絶と評価することはできないものといわなければならない。
このように、被告の調査は自主申告権の尊重という観点を捨象した形式的なものであつて、実質的には調査をなしたとは言えず、これに基づく本件各更正は違法である。
2 推計課税の必要性の欠如
(一) 被告は、推計課税の必要性は課税処分の適法要件ではない旨主張するけれども、所得税は申告納税が原則であり、また実額課税が原則であるから、推計課税が許されるのは例外的な場合、すなわち被告が前記三の3で指摘する①ないし③の事由がある場合に限られ、これを欠く推計課税は違法になると解すべきである。そして本件各更正はその当時以下に述べるとおり実額による計算が可能であつたのであるから、右の①及び②の場合に該当せず、推計課税の必要性を欠いていたものである。
(二) 一般に、実額による差益金額の算定は、
差益金額=売上金額(現金売上+掛売上+雑収入)−売上原価〔期首棚卸額+期中仕入額(現金仕入れ+掛仕入れ)−期末棚卸額〕の算式で求められるところ、原告は、本件各確定申告のために、以下の帳簿、書類等を整理し、これによつて右実額を把握していた。
(1) 売上金額
毎日の現金売上は、日々閉店時にレジスターにより合計し、これを売上日計表に整理したうえ現金出納帳に転記し、掛売については、現金持参の都度レジスターに打ち込みを行つたほか、銀行振込の場合は当座勘定照合表など銀行からの書類により整理をしていた。
(2) 期首・期末の棚卸金額
毎年一月第二日曜日を目途に店を閉店して棚卸を行い、売価還元方式でこれを確定し、期末決算のための貸借対照表、損益計算書等に記入していた。
(3) 仕入金額
掛仕入れについては、各仕入先から仕切日毎に請求書、仕切書を受取り、これを小切手あるいは銀行振込で支払をし、右請求書、仕切書を整理、保存していたほか、年度末には各仕入先から年間の納入額を仕入先(相手先)の帳簿から整理してもらつた月別仕入高計算書等の送付を受けるなどしていた。また、現金仕入れについては、仕入業者より納品書又は請求書を受領するとともに、仕入業者に原告方に備え付けていたノート、納品伝票に品名・数量・価格を記入させたうえその都度現金で支払い、日々これらを現金出納帳に記入して管理していた。
(三) 原告は、本件係争各年分の所得に関し、本件調査当時、売上日計表、現金出納帳、当座勘定照合表、仕入先一覧表、取引先からの請求書、月別仕入高計算書等を備え付けており、これらによつて原告の所得の実額把握は十分可能であつた。
仮に、右帳簿書類の一部に散逸があつたとしても、被告の反面調査あるいは原告自らが仕入先に問い合わせることなどでこれを埋めることは可能であつた。
(四) 原告は、被告の原告に対する本件調査に際し、右帳簿書類を提示しなかつたが、これは本件調査が違法なものであつたため、これに対する正当な応対として右帳簿書類の提示を拒んだにすぎないものであり、前記(一)の③の場合、すなわち納税者が調査に協力しない場合には該当しないというべきである。
3 推計方法の非合理性
(一) 被告は、原告の総所得金額を同業者の平均差益率を用いて推計により計算し、右平均差益を求めるための類似同業者を、前記三の4の(四)の(1)の基準で抽出した旨主張しているが、本件各更正、国税不服審判所における本件各審査裁決、本件訴訟においては、各々次のような類似同業者を抽出している。
更正
審査裁決
本件訴訟
類似
同業者
ABD
ABC
AB
昭和四三年
差益率
16.66%
14.52%
15.61%
昭和四四年
差益率
15.52%
14.72%
15.58%
このように、抽象的基準としては同一の基準をたてながら、抽出するサンプルに右の差が出てくるような選定の基準には客観的合理性を認められないうえ、選定の過程が恣意的である。
(二) 被告が本件訴訟において原告の類似業者として抽出したのはA、Bの僅か二店だけであり、これとの類似ということになれば、その近似性が相当に高いものでなければより実額に近い推計値を得ることは不可能に近いにもかかわらず、A、Bには、以下のとおりその類似性に重大な疑問があり、これらから算出した本件平均差益率を原告に適用することには合理性がない。
すなわち、Aには、①原告の半分以下の営業規模であること、②取扱商品に砂糖の計り売りがあること、③原告に比して多額の売掛金が生じていること、④原告店舗においては昭和四三年当時六名が稼働しており、従業員一人当たりの売上高は少なくとも約六八〇万円だつたところ、Aのそれは約四〇五万円ないし四八六万円でしかなく、従業員一人当たりの売上高が原告に比して著しく低額であること、⑤売上高に対する広告費の割合が昭和四三年分において1.07パーセントもあり、原告(0.36パーセント)に比して著しく高率であるため、顧客等に中元、歳暮時期にカレンダー、粗品をサービスしていることも考えられ、掛売顧客、配達先が多数あることを窺わせることなどの事情がある。従つて、スーパーマーケット形式の小売業というより、対面販売を中心とし、従業員一人当たりの売上高は小さくとも利益率を高める(サービスにより付加価値を高める)ことを営業方針としている小売業者とみるのが妥当であり、原告と類似の業者とはいえない。
また、Bには、①自家製の惣菜を販売しており、売れ残りの生鮮食料品類を無駄無く活用でき、この製造自体が付加価値を高めることになるので、原告に比して利益率が高くなること、②売掛金が原告に比して多額にあること、③昭和四三年分の従業員一人当たりの売上高が約五九三万円しかなく、原告に比して低調であることなどの事情がある。
(三) 差益率は、営業年数、具体的立地条件(住宅街か否か、その住宅街の主要住民階層、近隣における同種業者の競合関係等)、売場面積等により相当の差が生ずるところ、本件係争各年分における原告の営業の中で、差益率の低下を招来する特殊事情として以下のものがあるにもかかわらず、これを無視して原告に本件平均差益率を適用することは合理性を欠くものである。すなわち、①原告の店舗の所在場所は住宅地に隣接しているが、人口密集地とはいえないうえ、坂の途中にあるため、通りがかりの客、遠方からの客を吸収する条件にないこと、②主な顧客層は公営住宅居住のサラリーマン世帯で低所得者層が多いため、利益率の高い高級食料品の需要が低い、価格監視が厳しいなどの事情があるほか、加工製品(商品)についても大メーカー指向が著しいこと、③近隣の場所には、利益を出さないように価格設定をしている北見営林局購売部売店があり、その経営を委託されていた「菅原商店」も、これに準じて生鮮食料品を大量かつ廉価で扱つていたほか、原告と同業者の「スーパー五十嵐」、「花月センター」、「ホームスーパー」、「亀井商店」等が競合していたこと、④原告は当時不在がちであり、営業の主体となる一昭は、生鮮食料品の販売、仕入れに殆んど経験がなく、特に鮮魚類、野菜類については仕入れもままならず、一般食料品・雑貨の仕入れを担当していた原告の妻も病気がちであつて十分な仕入交渉をできない状態であつたこと、⑤原告は、昭和四二年七月にそれまでの対面販売、あるいは掛売を認める小売店から、スーパーマーケット形式に切り換え、商品価格については、従来の価格あるいは定価の一律一〇パーセント引きとしたが一般食料品・雑貨の仕入方法については昭和四四年八月に仕入担当者として小島立が携わるようになるまで従来どおりであつて、「薄利多売」に対応する仕入方法を採つていなかつたところ、被告主張の同業者Gが昭和四三年分において19.48パーセントの差益率を計上しながら、翌四四年七月にスーパーマーケット形式に切り換えたため13.24パーセントにまで差益率を低下させている事実に照らし、原告の右営業形態の変更は原告の差益率を相当低下させるものであることなどの特殊事情である。
4 実額計算の可能性
本訴において原告が提出した証拠である現金出納帳その他の帳簿書類は、前記2の(二)のとおりの経緯で作成されたものであり、十分に信憑性があるのであるから、これによつて総所得金額等の実額の認定は可能であり、その数額は別表四の(一)、(二)のとおりである。仮に、右帳簿書類が不充分であつて一部について実額計算が不可能であつたとしても、その部分についてだけの推計をすることも可能なのであつて、被告の反面調査の結果を開示して加えるなどすれば、被告のなした本件推計よりも実額に近い数値(原告の申告に近い数値)を得られることは明らかである。そして、いずれの場合も本件各更正の基礎となつた総所得金額を下回るものである。
六 原告の反論に対する認否等
1 原告の反論1ないし3はいずれも争う。原告の反論3の(三)において主張する特殊事情については次のとおりである。
(一) 特殊事情②について
原告のような食料品小売業者において、利益率の高い高級食料品の需要が低いのは、原告だけに特異な個別的条件とは考えられないし、加工製品についても大メーカー指向が著しいのも一般的にいえることであつて、推計の合理性を否定しうる事情といえない。
(二) 特殊事情④について
益井一昭は、昭和四一年六月一五日に北見市寿町三丁目五番一八号(原告住所と同じ)に転入し、原告と同居して家業に従事していたものと認められ、原告の昭和四二年分の確定申告書によれば、一昭の同年の事業専従期間は一〇か月であり、少なくとも昭和四二年三月から原告の事業について単なる家業見習から一人前の専従者となつていたことは、原告自身の申告からも明らかであり、一昭に関する事情は、昭和四二年分(差益率15.53パーセントとして修正申告)はともかくとして、本件係争各年分は、昭和四二年分に比べ著しくその条件が改善され、むしろ差益率向上の要因になつていたにもかかわらず、昭和四二年分よりも低い差益率を原告が主張するのは矛盾である。
次に、原告の妻の病気による仕入業務の影響については、原告の仕入先は全て北見市内であり、かつ昭和四二年七月の原告の店舗改造後に新規仕入先が多くなつた事実もなく、また原告が相当以前(酒類販売の許可からみて昭和三〇年ころと思われる。)から営業している事実からすれば、妻がその仕入れを主に電話等によつたとしても、他店に比し特段に不利な仕入価格にされたとは到底考えられない。更に本件係争各年分には既に一昭が相当仕事に慣れて一人前の専従者となつていたこと及び原告自身相応に事業に従事している等の事実からみれば、原告の妻の病気が類似同業者の類似事情の範囲を超えるものとは言い難く、特段の個別事情には当たらないというべきである。
(三) 特殊事情⑤について
同業者Gの差益率が低下したのは、営業形態の変更等を行つた年についてであるから、同様の関係が原告に適用されるとすれば、本件係争各年分についてではなく、営業形態の変更等を行つた昭和四二年分についてでなければならないところ、同年分の差益率は15.53パーセントであつて(被告が算定したA、B、D三者の昭和四二年分の平均差益率であり、原告はこれを妥当と認めて自主的に修正申告した。)、営業形態の変更等が原告の差益率に影響を及ぼしたとは考えられない。
仮に、同業者Gと同様に営業形態の変更等が差益率を低下させたとしても、その直接的影響は昭和四二年分についてであつて、本件係争各年分についてはむしろその影響が落ち着きをみたものであるから、その差益率は昭和四二年分の15.53パーセントを相当上回るはずのところ、原告は、かえつて差益率の低下を主張しており、主張自体矛盾している。
2 原告の反論4は争う。
原告主張の本件係争各年分の仕入高の一部については、買掛金についての記帳もなく、これに関する原始記録も存しないばかりでなく、現金仕入れについても、現金出納帳上その日の合計額を計上するのみで、その取引の具体的内容を確認できる納品書、請求書等の原始記録を提出していないのである。原告は、現金出納帳の現金仕入れのうち昭和四四年分の二〇〇日分の原始記録のみを国税不服審判所に提出しているが、これとても現金出納帳と約八割も符合していないのであり、現金出納帳の現金仕入れの金額は到底信頼することができないのである。その他原告提出の帳簿書類は、原告主張の売上原価を証するものとしてはいずれも信憑性を欠き、これらをもつて実額計算をすることは不可能である。
第三 証拠<省略>
理由
一請求原因1の事実及び本件各更正が推計課税に基づいたものであることは当事者間に争いがない。
二税務調査について
原告は、本件各更正は、国税通則法一六条一項一号、二四条に違反して、適法かつ充分な調査に基づかずになされており、違法である旨主張するので判断する。
1 先ず、本件調査は調査の合理的必要性がないのにされた違法がある旨の主張について検討する。
国税通則法一六条一項一号、二四条によると、税務署長の納税申告書に係る課税標準等又は税額等の更正のためには一定の事項の事実認定と判断が要求されており、その認定判断に必要な範囲内で職権による調査が行われることを右条項は当然に許容している。そして、所得税法二三四条一項は、所得税について、適正かつ公平な租税負担の実現を一般的、抽象的に保障するため、税務署の調査権限を有する職員において、当該調査の目的、調査すべき事項、申告の体裁内容、帳簿等の記入保存状況、相手方の事業の形態等の諸般の具体的事情にかんがみ、調査の客観的な必要性があると判断される場合には、右職権調査の一方法として同条項の質問検査権を行使する権限を認めている趣旨と解される。したがつて、右調査の客観的な必要性には、過少申告の疑いが具体的かつ合理的に存する場合のみならず、そのような疑いが当初から存しない場合でも、課税の公平適正な運用を図るため、申告の適否すなわち申告の真実性、正確性を確認する必要性が存する場合も含むものと解すべきである。これを本件についてみるに、<証拠>によれば、原告の提出した昭和四三年分の所得税確定申告書には、事業所得について収入金額、必要経費、事業専従者控除及び所得金額の各欄の記載があるものの収入金額は四三三万二七六八円、必要経費は三八九万〇三〇七円と原告の営業規模からみて著しく過少であつたこと(これは事業所得の収入金額欄には売上金額を記入すべきところ原告は独自の理解に基づき売上差益金額と雑収入の合計額を記入し、また必要経費欄には仕入関係を含めた全経費を記入すべきところ仕入金額を除外して記入したことによる。)、昭和四四年分の所得税確定申告書には、事業所得について、収入金額及び必要経費の各欄の記載もなかつたことから、被告において右各年度とも売上金額及び仕入金額を把握することができなかつたこと(以上の事実のうち各所得税確定申告書の記載に関する部分は当事者間に争いがない。)、被告は、原告の申告した所得金額(とりわけ、事業所得につき昭和四三年分が二八万一六六一円、昭和四四年分が二三万二七〇五円)がその経営する事業規模に照らし、また他の同業者に比較して著しく低いと判断したため、被告所部の江戸係官に原告の調査を命じたことが認められ、これに反する証拠はない。右認定事実によれば、本件調査当時、被告において原告の申告の適否について確認する必要があつたものというべきであり、したがつて、本件調査に客観的な必要性の存したことは明らかであるから、原告の前記主張は理由がない。
2 次に、本件調査が原告の所得を実額で把握できないままに終わつたのは、本件調査において調査の理由を開示しなかつたことその他の違法事由があつたことに由来する旨の主張について検討する。
(一) 本件調査の経緯
被告所部の江戸係官らが昭和四五年一〇月一六日を初めとして合計一二回にわたり原告方に臨場し、原告に帳簿書類等の提示を求めたこと、その際原告が民商会員らを同席させたうえ、その場の状況をテープレコーダーで録音したこと、原告の長男一昭が江戸係官らを写真撮影したこと、同席した民商会員らのうち酒気を帯びた者が江戸係官らに暴言を吐いたこと、原告が江戸係官らに提示した書類は仕切書、請求書、損益計算書、経費内訳一覧表であつたことは当事者間に争いがなく、右争いのない事実と<証拠>を総合すると、次の事実を認めることができる。
(1) 被告の指示を受けた江戸、中谷両係官は、昭和四五年一〇月一六日、本件調査のために原告宅に赴いたところ、原告は不在だつたので、原告の長男であり、事業専従者でもある一昭に対し、昭和四二年分及び本件係争各年分の所得税の各申告金額が、申告書に書かれている内容や原告が取り扱つている酒類からみて低調である旨の調査の理由を告げたうえ調査の協力を求めたが、一昭は、「帳簿の関係は父が付けているのでわからない。」などと述べたのみであつた。次いで、江戸係官らは、同四五年一一月初旬に二回原告方を訪れたところ、いずれも原告が不在であつたので、応対に出た一昭の妻里子に対し訪問の趣旨を伝えたが、所期の目的を達することができなかつた。
(2) その後、原告が調査の希望日を一一月一八日と指定してきたため、江戸、中谷両係官は、同日原告方を訪ね、申告に係る所得金額の内容が経営規模、仕入れの状況、同業者らと比較して著しく低額である旨を告げ、その内容を確認するための関係諸帳簿及び原始記録の提示を求めた。しかし、原告は、「いくら低いのか数字で示してみてくれ。話し合いで解決してはどうか。」などと言い、帳簿等の提示に応じようとしなかつた。また、その場には民商会員ら約六名が学習会と称し、調査に立ち会おうとしたので、江戸係官らが公務員の守秘義務及び税理士法に違反するおそれがあるとしてその立会いを断り、退室を求めたが、原告は、「この方達は私の友達であるし、聞かれて何ら不都合なことはない。」などと言つて右退室の求めを拒否した。加えて、原告側は、その場にテープレコーダー二台を設置して録音を始めたので、江戸係官らは公務員の守秘義務を理由にその撤去を求めたが、原告はこれに応じないまま録音を続けた。更に、一昭は、江戸係官らが調査している状況を写真撮影し、江戸係官らの抗議に対しても、「街頭でもあるまいし、自分の家で写真を撮つて何が悪いんだ。そんな安い顔、おまえもばかだな。」などと嘲笑した。このような状態の中で、江戸係官らは、約二時間にわたつて原告方で調査を行つたものの進展がなかつたため、調査不能と判断して原告方を辞去した。
(3) その後、江戸係官は、中谷係官と共に調査のために八回にわたつて原告方を訪れ、そのうち原告と会えたのは原告から調査日時の指定のあつた四回だけであつたが、右四回の調査の際には、いずれも民商会員らの立会いがあつたうえ、原告側によるテープレコーダーの録音も行われ、また、原告及び右民商会員らは、調査とは無関係な国税通則法の改正時の国会の附帯決議に関連した議論をしきりにしかけ、これに答えなかつた江戸係官らに対し、「おまえ達は不勉強だから見解も示されないんだ。不勉強で申し訳ないと謝れば帳簿書類は見せてやつてもいいぞ。」などと述べている。更に、昭和四五年一二月一五日の調査の際には、酒に酔つたうえ、江戸係官らに対し、「こいつらまだ文句言つてんのか。この野郎、ぶつ殺してやる。」などの暴言を吐く民商会員までもいた。
このような調査の過程で、江戸係官らは帳簿書類等の提示を再三求めたが、原告は、調査の具体的理由の開示を求めて譲らず、あるときは、原告方の机の上に立てかけていた帳簿様簿冊を手にとつて頭上高く掲げ、その中のページをペラペラとめくるのみで中身を見せようとしないまま、江戸係官らに対し「どうだ、これでも帳簿を見たことになるだろう。」と言うなどし、僅かに、昭和四二年分及び本件係争各年分の掛仕入れに関する原始記録の一部、経費内訳一覧表及び損益計算書(但し、売上金額、仕入金額、期首・期末棚卸金額の記載はない。)の各提示を三回にわけて行うに止まつた。
(4) 江戸係官は、本件調査開始後三か月位経たころ、原告方へ臨宅しても民商会員らの妨害があるうえ、原告から帳簿の提示を期待することは困難であり、また既に提示を受けた原始記録では、売上金額、仕入金額、棚卸金額の期首・期末の増減の把握ができなかつたため、推計計算による更正に及ばざるをえないと判断するに至つた。
右認定に反する<証拠>のうち右認定に副わない部分は前掲各証拠に照らして措信することができない。
(二)(1) まず、原告は、被告所部係官の本件調査、即ち質問検査権の行使は調査の理由を具体的に開示していないから違法であると主張する。
しかしながら、所得税法二三四条一項は質問検査権の行使に際し、調査の理由を開示すべきことを要件とはしておらず、他にこの点を義務づける定めはなく、原告主張の諸事情を考慮しても調査の理由の個別的・具体的な告知は質問検査を行なううえでの法律上一律の要件とされているものではないと解するのが相当である(最高裁昭和四八年七月一〇日第三小法廷決定・刑集二七巻七号一二〇五頁参照)。のみならず前記認定事実によれば、被告所部係官は、第一回目の調査臨場の際は事業専従者である原告の長男一昭に対し、第四回目の調査臨場の際は原告に対し、それぞれ本件調査の理由として、本件係争各年分の確定申告に係る各所得金額が原告の仕入れの状況等から著しく低調であることを告知しているのであるから、およそ調査の理由を開示しなかつたとはいえないものである。したがつて、本件調査の際、被告が調査の理由を明らかにしないという前提のもとに、売上及び仕入れに関する帳簿書類等の提示を拒否した原告側の態度は正当な応対とみることはできず、原告の主張は理由がない。
(2) また、原告は、被告の本件調査の打切りは、原告に対する質問検査権行使の継続がいまだ可能であつたにもかかわらず、民商会員の立会いを嫌忌し、正当な権利行使であるテープレコーダーによる録音を拒否するなどの独断に基づくものであるとし、このような調査は違法であると主張するかの如くである。
しかし、所得税法二三四条一項の質問検査権については、その範囲、程度、時期、場所等に関し、実定法上特段の定めがないのであるから、これらについては、適正公平な租税負担の実現という税務調査の目的から合理的なものである限り、課税庁の裁量に委ねられていると解される。そして、右質問検査権行使の際においても被告所部係官は税務調査に関して守秘義務を負うのであるから、右係官が税理士でない者の立会いや録音を拒んだことは相当であり、それにもかかわらずこれに応じない原告の態度を、調査非協力と判断する一事情として考慮することは何ら不当とはいえない。加えて、前記認定事実によれば、原告は、前後一二回(そのうち原告が応対したのは五回)にわたる本件調査に際し、被告所部係官の再三にわたる調査への協力及び帳簿書類の提示要請にもかかわらず、掛仕入れに関する原始記録の一部等の提示をしただけで、調査の理由の開示、民商会員の立会い、テープレコーダーによる録音についての独自の見解に固執し、肝心の売上金額に関する帳簿書類の提示を頑くなに拒み続ける等普通の対応をしているということはできず、その果てに、原告らは、右係官らに対し、数々の嘲笑的あるいは粗暴な言葉を浴びせ掛ける等の嫌がらせと評価されても已むを得ない対応をしているのであるから、以上の事情等を総合考慮し、推計による更正をせざるを得ないと判断して本件調査を終わらせた被告の判断は相当というべきである。
(3) 更に、原告は、国税通則法一六条一項一号、二四条において、更正の前提として要求される調査は、申告納税方式を原則とする所得税については、調査の目的、方法もこの原則による制約を受け、申告について具体的誤りがあるか否かの調査を実施すべきであるところ、本件調査はこの点を捨象した形式的なものであり、本件各更正は実質的には調査に基づかずになされた違法がある旨主張する。
確かに、同法二四条は、更正の前提として調査を要求しているのであるから、調査を全く怠つた見積課税の場合には、当該更正はこれをなしうべき前提要件を欠くものとして違法となると解する余地はないではない。しかしながら、本件各更正については、右認定のとおり、被告において所部係官をして原告方への多数回の臨宅を含めて相当な調査をさせており、本件調査は名実ともに調査というに値するものであつたということができるから、原告の右主張は理由がない。
3 結局、被告所部係官が行つた本件調査には違法は存せず、これに基づいて本件各更正がなされたこと自体が違法であるとする原告の主張は採用することができない。
三推計課税の必要性について
1 税務署長が所得税について更正をする場合、直接資料によらず、各種の間接資料を用いて所得を認定する推計課税(所得税法一五六条)は、直接資料を用いて所得の実額を把握することに代わる例外的な措置であるから、原則として、充分な直接資料が得られないとき、すなわち推計の必要性が存するときにはじめて許されるものと解される。
これを、本件についてみるに、前記二の2の(一)で認定したとおり、原告は、被告所部係官に対し本件係争各年分の売上及び現金仕入れに関する帳簿書類を提示せず、掛仕入れに関する原始記録の一部等を示すにとどまり、かつ、右係官の質問に誠実に対応しないなどして調査に協力しなかつたのであるから、被告は原告の各年分の各総所得金額を実額により把握することは到底不可能だつたのであり、本件各更正当時において右の各総所得金額を推計により認定する必要性が存したことは明らかである。
原告は、本件係争各年分の売上日計表、現金出納帳、当座勘定照合表、仕入先一覧表、仕入れに関する請求書、月別仕入高計算書等を備えつけており、これらの書類のうち一部しか被告所部の係官に提示しなかつたのは、本件調査が違法なものであつたため、これに対する正当な応対として行つたことによるものであつて、故なく帳簿書類の提示を拒んだものではない旨主張するが、前記二で判断したとおり、本件調査には何ら違法は認められないから、原告の右主張はその前提を欠き失当である。
四実額による算定の可否
1 本件係争各年分の売上金額(但し、昭和四四年分を除く。)、経費、事業専従者控除額、不動産所得金額、給与所得金額、譲渡損失金額(昭和四四年分についてのみ)が別表二の(一)、(二)のとおりであることは、当事者間に争いがなく、昭和四四年分の売上金額については原告主張額が五〇三六万三六九三円、被告主張額が五〇三三万一七九八円で、ほとんどその差はない。そして差益金額は売上金額から売上原価(期中仕入金額に期首棚卸金額を加算し、これから期末棚卸金額を控除した額)を控除した額であるところ、被告は本件係争各年分の差益金額を推計の方法により算出し、原告は右の推計課税を争い、別表四の(一)、(二)の番号2ないし5のとおり実額を主張する。推計課税の性質上、実額がこれと異なることが立証されれば実額が優先すると解されるので、まず実額算定の可否について検討する。
2 期首・期末の棚卸金額
証人小島立は、毎年仕入先である問屋の協力を得て棚卸しを実施し、売価還元方式でその額を把握していた旨証言し、<証拠>の本件係争各年分の損益計算書(以下「本件損益計算書」という。)には原告主張の本件係争各年分の期首・期末の棚卸高が記載されているけれども、いずれもその具体的な根拠は示されていないし、右の金額を客観的に裏付ける証拠は存在しないから、右の各証拠のみでは原告主張の期首・期末の棚卸金額を認めるには足りないものといわなければならない。
3 仕入金額
(一) 本件損益計算書には原告主張額(昭和四三年分三七二七万〇八六六円、昭和四四年分四五四四万六一四八円)と同額の本件係争各年分の仕入金額が記載され、これを裏付ける資料として本件係争各年分の現金出納帳(<証拠>、以下「本件現金出納帳」という。)、掛仕入先からの納品書・領収書・請求書・取引一覧表及び当座勘定照合表(<証拠>、以下これらを一括して「掛仕入れに係る本件原始記録」という。)が存在し、これらの各書証に記載されている金額を集計すると、現金仕入金額については昭和四三年分が九七五万三七七九円、昭和四四年分が八五六万七五八七円(本件現金出納帳の現金仕入金額を合計した額)、それ以外の仕入金額については昭和四三年分が二一一一万五二九三円、昭和四四年分が三五五九万四六一二円(掛仕入れに係る本件原始記録に記載された金額を合計した額)となる。
そして原告主張のその余の仕入金額、すなわち昭和四三年分の六四〇万一七九四円、昭和四四年分の一二八万三九四九円の各仕入金額についてはこれを裏付ける客観的な資料は全く提出されてはいない(この点は原告も自認している。)。右の裏付けのない仕入金額については極めて不確実なものであつて、本件損益計算書、<証拠>によつてもこれを認めるには足りないものといわざるを得ない。
(二) 次に、右(一)のとおり現金仕入については本件現金出納帳にその金額の記録はあるものの、現金仕入先の氏名や各現金仕入先別の仕入金額も明らかになつてはおらず、また右の取引の内容を裏付ける納品書、請求書等の原始記録も提出されていない(但し、原告は国税不服審判所に対し現金仕入額の検証書類として、現金仕入伝票・領収書等の原始記録の一部を提出しているが、この点は後に述べる。)。したがつて現金仕入金額については本件現金出納帳の記載が正確で信用できるか否かにかかつているので以下この点について判断する。
<証拠>は、原告店舗においては、毎日の営業終了後に、レジスター機取扱者が、一日の現金売上及び掛売上に係る現金回収取引の合計金額をレジスター機で集計してレシートに印字しており、一昭(昭和四四年八月二二日ころからは小島立)は、原則として日々、右レシートを売上日計表(<証拠>、以下「本件売上日計表」という。)に貼付する一方、本件売上日計表にレジスター機の現金有高を金種別に書き込み、本件現金出納帳には本件売上日計表を参考にして現金有高を基本として算定した現金売上及び掛売上に係る現金回収取引の合計金額を「現金売上」の科目に転記し、現金仕入れの金額についてはこれに関する伝票類を参考にして「現金仕入」の科目に記載するなどして整理していた旨供述するが、この方式を前提とすれば、本件現金出納帳は正確であることになるところ、問題はこれが正確に履践されていたか否かにかかることになる。
そこで、右の点を検討すると、次の各事実が認められる。
(1) <証拠>によると、昭和四三年七月三一日及び八月五日については、小切手で決済されるはずの掛仕入商品が現金で支払われ、これが本件現金出納帳の「現金仕入」の科目に算入されていること、当時原告は、本件現金出納帳を記帳していた一昭に対し、掛仕入れを現金で支払つた場合、本来であるならば掛仕入れの科目を現金出納帳に立てるのでなければ現金仕入れと掛仕入れの区別が不明確になるにもかかわらず、これを「現金仕入」の科目で処理するように指示していたこと、本件各確定申告の際、現金仕入れの金額は、「現金仕入」の科目を単純合計して求めたものであることが認められる。したがつて、少なくとも右両日に現金で決済された掛仕入れは、現金仕入れと掛仕入れの二重に計上された疑いがあると言わざるを得ないうえ、本件現金出納帳の「現金仕入」の科目の性格が右認定のとおりである以上、右両日以外にも相当数の日について掛仕入れが「現金仕入」科目へ混入していることが推認でき、<証拠>中右認定に副わない部分は措信できず、他に右認定を左右するに足りる証拠はない。
(2) <証拠>によると、本件現金出納帳には、「現金仕入」の科目を増額訂正したうえ、これとほぼ同額の入金が当座預金からあつた旨の追加記載をするなどして、明らかに後日の辻褄合わせをしたとみられるものが次の各日にあることが認められる。
昭和四三年 一月三一日、二月二九日、三月一日、八月五日、九月二四日、一〇月九日、一二月二日、一二月一一日、一二月三一日
しかも、右<証拠>、当座勘定元帳写(<証拠>)によると、右各日の「現金仕入」の増額訂正に連動させ、その前後の日に当座勘定に該当する取引が無いにもかかわらず、本件現金出納帳上当座勘定から入金があつた旨の記載があるものが、次の各日にあることが認められる。
昭和四三年 一月三一日、二月二九日、三月一日、七月三一日、一二月三一日
このような記載は「現金仕入」の増額訂正自体が実際とは異なる架空のものではないかとの疑いを抱かしめるものである。
(3) 証人益井一昭及び原告本人は、レジスター機の中の現金は一日の営業終了後一回だけ精算するのであつて、仕入先への現金による支払及び当座勘定への入金は当日のレジスター機の中の現金からは行つていない旨供述しているところ、<証拠>によると、当日の仕入先への現金による支払及び当座勘定への入金が現金売上(レジスター機の中の現金)からもなされているのでなければ帳簿上説明不能なものが次の各日にあることが認められ、この事実は、本件現金出納帳が原告主張の方法で正確に記帳されてはいなかつたことを推認させるものといわなければならない。
昭和四三年 二月二六日、七月八日、八月三一日、九月二日、九月三日、一〇月一日、一〇月四日、一〇月一二日、一〇月一七日、一〇月二五日、一〇月二八日
昭和四四年 一月一四日、一月二七日、二月三日、二月七日、二月二二日、二月二五日、三月三日、三月一九日、四月一四日、四月二一日、五月一九日、六月六日、六月二三日、七月四日、七月一二日、一一月一日、一一月五日、一一月八日、一一月二一日
この点につき、原告本人は、店主よりの一時借である旨供述するが、そうであるならば「店主勘定」の科目を立てるのが通常であり、本件現金出納帳においても随所でこのような処理がなされているのであるから、右供述はにわかに信用し難い。
(4) <証拠>によると、当座勘定取引の有無、金額、日付について、本件現金出納帳と当座勘定照合表、同元帳とが一致しないものが、前記(2)以外に次の各日(本件現金出納帳上の日付)にあることが認められる。
昭和四三年 一月二五日(本件現金出納帳には何も記載がないが、当座預金には二〇万〇三五〇円の入金の事実がある。)、二月一九日(金額が不一致)、三月三日(日付が不一致)、三月三一日(本件現金出納帳には当座預金から二八万一四六五円入金との記載があるが、当座預金には該当の事実がない。)、四月九日(金額が不一致)、五月一日(同)、七月一五日(同)
昭和四四年 二月一五日(日付が不一致)、六月一四日(同)、六月一七日(同)、七月四日(同)、七月一二日(同)、八月三〇日(同)、九月一七日(同)、一一月一八日(同)、一二月六日(同)、一二月一三日(同)
(5) <証拠>によると、本件売上日計表のうち前掲甲第七八号証の一ないし六八の六八日分は後日作成され直したことが認められる。この点につき、同証人及び原告本人は、当初使つていた大きな売上日計表用紙(以下「大きな用紙」という。)が複雑で不便だつたので、昭和四三年二月か三月ころ簡素化して小さな売上日計表用紙(以下「小さな用紙」という。)を用いるようになつたが、その際整理のために従前の作成済みの売上日計表のうち同年一月分にさかのぼつて小さな用紙に転記し直した旨供述する。しかし、大きな用紙から小さな用紙に転記した動機には、これに要する労力とこれから得られる便益とを勘案するとにわかに納得し難いものがあり、また、右転記を実際に行つた者が一昭であるかの点については、原告本人はわからない旨供述し、証人益井一昭は曖昧な供述で言葉を濁している点も不可解なことといわなければならない。更に、大きな用紙で作成されている前掲甲第九七号証の一ないし二六によると、昭和四三年六月二八日に至つても大きな用紙を使用していたことが認められ、しかも右甲第九七号証の一ないし二六には、同号証の二三を除いた全てに商品分類記号「サ」のトータルレシート(以下「「サ」のレシート」という)が貼付されていて、当時は「サ」のレシートを売上日計表に貼付する取扱いであつたと推認されるにもかかわらず、昭和四三年六月二八日以前の日付である前掲甲第七八号証の六九ないし一三七の本件売上日計表には小さな用紙が使用され、「サ」のレシートも貼付されていないのであるから、これらも後日作成されたのではないかとの疑いがある。このように、前掲甲第七八号証の一ないし一三七という大量の本件売上日計表が後日作成され直したのではないかとの疑問を払拭し難いことに加え、本件売上日計表の年月日とそこに貼付されているレシートの年月日の齟齬するものが相当数に上ることをも併せ考えると、本件売上日計表が日常業務の中で日々正確に作成されたものと認めることは困難といわなければならない。してみると、本件売上日計表と本件現金出納帳の各記載がおおむね一致するからといつて、直ちに本件現金出納帳の信用性を肯定することはできない。
(6) <証拠>によると、原告は、本件現金出納帳上の「現金仕入」のうち昭和四四年分の二〇〇日余りの日の原始記録を国税不服審判所に提出していたが、右原始記録上の金額と現金出納帳上の金額が符合している日は四六日、原始記録上の金額の方が多い日が三八日、その余の日は現金出納帳上の金額が多く、符合していない日は全体の約八割にも及んでおり、しかも現金出納帳上の合計金額は右の原始記録の合計金額と比べてはるかに多額であることが認められ、右認定に反する証拠はない。したがつて、この点でも本件現金出納帳の記載の正確性については疑いが存するのである。
以上のとおり、本件現金出納帳には数多くの疑問点があり、右(1)、(2)の如く「現金仕入」の科目中には架空計上や掛仕入れの混入が窺われさえもするのであるから、本件現金出納帳全体の正確性を検証できる原始記録等の証拠がないかぎり、本件現金出納帳の信用性はこれを全体として否定せざるを得ないというべきである。
(三) 前記(一)のとおり現金仕入れ以外の掛仕入れについてはこれを証する掛仕入れに係る本件原始記録が存するので、この信用性について判断する。
先ず、<証拠>によつても明らかなとおり、<証拠>(いずれも株式会社北一包装用品店作成の請求書)には、本来一般経費となるべきものが相当多数混入し、仕入金額となるべきものと区別がなされていないこと、前掲<証拠>(北見勤労生活協同組合作成の請求書)には同一の掛仕入取引が二重に計上されていることが認められ、右各書証が正確でないことは明らかである。そして、その余のものについても、前記3の(二)の(1)のとおり、現金決済の掛仕入れが現金仕入れとしても二重計上されている疑いがあるのであるから、仕入金額を実額で算定するためには、掛仕入れのうち本件現金出納帳の「現金仕入」の科目への混入部分を特定し、これを控除する作業が不可欠である。しかるに、本訴においては現金仕入れに関する納品書・仕切書・領収書等の原始記録は全く提出されていないうえ、本件現金出納帳の「現金仕入」の科目欄には、当該一日の「現金仕入」の合計額が記載されているだけであるから、現金仕入先別あるいは現金仕入商品別の金額は明らかにならないし、また、掛仕入れに係る本件原始記録及び当座勘定元帳等を精査、対照してみても、現金決済の掛仕入れだけを特定することはできず、その他これを特定するに足りる的確な証拠はない。
また、掛仕入れに係る本件原始記録のうち<証拠>による仕入金額(昭和四四年の三香園、牧野、北印青果、下岡及び西山関係)は合計三二四万二〇八四円になるところ、右各書証はいずれも原告において作成したもので、客観的裏付けに乏しく実額を認定するにはいささか疑問を禁じ得ないところである。
したがつて、掛仕入れに係る本件原始記録も正確性に欠けるところがあり、原告主張の仕入れの実額を認定する資料としてはたやすく措信することはできない。
(四) 最後に、本件損益計算書については、本件現金出納帳及び掛仕入れに係る本件原始記録がいずれも正確ではないのであるから、これによつて裏付けられているとされる部分が信用できないのはもとよりのこと、かような枢要部分に疑義がある以上、本件損益計算書全体の正確性を担保する証拠が他にない本訴においては、本件損益計算書の信用性は、これを全体として否定せざるをえない。
4 以上のとおり、原告が実額主張の根拠とする前記各書証はいずれもその正確性について問題があつて、これらによつて差益金額の実額を算定することは困難であり、他に原告主張の実額が正当であることを認めうる的確な証拠はないのであるから、結局本件係争各年分の差益金額については推計によつてこれを算定するほかないものというべきである。
五推計課税の合理性について
1 被告は、本件損益計算書等によつて算出される売上金額がその実額を超えることはないとし、右売上金額に類似同業者の平均差益率を乗じて差益金額を求めているところ、原告は、本件現金出納帳、掛仕入れに係る本件原始記録、本件損益計算書が正確であるとし、仮に一部に誤記・欠落があるとしても、当該部分のみを推計で補つたうえでその余の部分については右各書証に基づいて計算をすれば、より実額に近い推計ができ、これは被告主張の差益金額を下回るものである旨主張し、被告の選択した推計方法は本件においては合理性がないと主張するものの如くである。
しかしながら、本件現金出納帳、掛仕入れに係る本件原始記録及び本件損益計算書は、前記四で説示のとおり、いずれも全体として措信できず、正確な部分とそうでない部分を特定することができないのであるから、原告の主張するように売上、仕入れ、期首・期末棚卸金額の全てについて右各書証を基本に計算し、明白な誤記・欠落部分だけを推計によつて補正するなどということは困難であつて、原告の右主張は到底採用できないというべきである。しかし、このことは、本件現金出納帳等から原告の売上を認定することと直ちに矛盾するわけではない。すなわち、本件現金出納帳に信を措くうえで最も障害になつたのは「現金仕入」科目が過大である疑いを払拭し難いことであつて、「現金売上」及び「掛売上」の各科目が過大に記載されていることを窺わせるに足る特段の事情はない。そして、経験則上一般に売上金額を納税者自らが過大に記帳することは稀有であるから、本件現金出納帳が全体として信用性に欠けるものであるとしても、その「現金仕入」及び「掛仕入」の各科目の合計金額が実額を上回ることはないと認定するのは合理的なものであるというべきであつて、この理は、本件損益計算書から銀行振込の掛売額等、雑収入額を認定することにも妥当する。
そして、当事者間に争いのない事実並びに<証拠>によると、原告の売上金額及びその内訳は次のとおりであると認めることができる。
昭和四三年分 売上金額 四〇八五万八八〇四円
現金売上及び現金決済の掛売上の合計金額 四〇四〇万〇二五四円
銀行振込の掛売上額等 三九万五二〇〇円
雑収入額 一六万三三五〇円
昭和四四年分 売上金額 五〇三三万一七九八円(原告主張額は被告主張額を若干上回るが被告の主張する限度で認定する。)
現金売上及び現金決済の掛売上の合計金額 四八八二万八五二八円(右同)
銀行振込の掛売上額等 一一七万七七一七円
雑収入額 三二万五五五三円(右同)
このように、本件においては、物品販売業の原告について、実額を超えることのない売上金額を認定できるのであるから、被告が右売上金額に類似同業者の平均差益率を乗じて差益金額を算定する推計方法を選択したことには合理性があるというべきである。
2 次に、類似同業者の平均差益率について検討する。
(一) <証拠>を総合すると、被告は、類似同業者を選定するために、青色申告者で本件係争各年分の申告につき不服申立て又は訴訟を提起していない者のうち、原告と同じく、北見市の住宅地域に店舗がある食料品小売業者で酒・煙草の販売も行つていて(酒・煙草の差益率が一般食料品とは異なるため)、その営業形態がスーパーマーケット形式であり、更にその売上金額が原告の売上金額の0.5倍ないし1.5倍の範囲内にある者の中から原告と類似する別表三記載のA及びBの二業者を選定したが、その過程で原告に類似する業者として別表三記載の業者を一応抽出したこと、更に、右各業者について、個別的に実地調査等をしたところ、Cは商業地域に位置しているうえ、昭和四三年七月に一般食料品部門の営業を他に譲渡し、それ以後は酒類・煙草・郵便切手のみの販売となつたこと、Dは煙草の販売を行つていなかつたうえ、昭和四四年分については店主が病気のために営業成績が前年に比して低調であつたという特殊事情があつたこと、Eは古くからの路線市街地に所在していたうえ、一般食料品に比して著しく差益率が低い米穀の販売が売上の三〇パーセント以上を占めていたこと、Fは郊外に位置していたこと、Gは営業形態がスーパーマーケット形式であつたのが昭和四四年の後半だけの短期間であつたという特殊事情があつたこと、Hは法人組織による経営であるうえ、兼業部門があり、売上金額が原告の売上金額の三倍を超えており、いずれも原告の類似同業者としては不適当であると判断されたこと、そして最終的に抽出、選定されたA及びBの売上金額、差益金額、差益率及び本件平均差益率は別表三のとおりであつたことが認められ、右認定を左右するに足りる証拠は存しない。
右認定の事実によれば、類似同業者抽出についての被告の基準は合理的なものであり、本件類似同業者の選定に恣意が介在した形跡はなく、原告の主張は理由がない。
(二) ところで、推計の基礎となる比準同業者の数は個別事情を平均化するに足る件数の得られることが望ましいが、当該納税者と地域が同一の地区で正確な資料を有する同業者が僅少な場合には(比準同業者は、北海道内の一地方都市である北見市内に存することが必要であるところ、その地域性・業種等を考慮すれば、同業者が僅少であること自体は已むを得ないところである。)、比準同業者が本件のように二例であつても、そのことから直ちに推計の合理性が否定されるものではなく、比準同業者との業務形態の類似性の有無・程度あるいは当該納税者に比準同業者から得られる数値による推計を不合理ならしめる程の特殊事情が存するか否か等から推計の合理性の有無を実質的に判断するのが相当である。そして、前記認定の事実に加え、証人五十嵐楯臣、同江戸修(第一、二回)の各証言及び弁論の全趣旨を総合すると、A、Bは、原告と同様に酒・煙草・一般食料品の販売をスーパーマーケット形式で営む個人業者であつて、一般食料品の内訳・割合等は明らかではないが、差益率に著しい格差の生じることのある商品が含まれておらず、業種・業態が極めて近似していること、A、Bは北見市内の都市周辺住宅街に位置するという原告に類似した立地条件にあること、A、Bは、その各従業員数及び売場面積は明らかではないものの、各売上金額は原告のそれの上限値1.2倍、下限値0.56倍の範囲内にあり、原告との営業規模の類似性にも欠けるところはないことが認められる。
したがつて、A、Bと原告との間には、その差益率に著しい差異をもたらす程の質的差異は乏しいとみるのが相当であつて、本件平均差益率を用いて推計することには合理性があるといわなければならない。
3 原告は、Aには、①原告の半分以下の営業規模であること、②取扱商品には砂糖の計り売りがあること、③原告に比して多額の売掛金があること、④従業員一人あたりの売上高(約四〇五万円ないし四八六万円)が原告(約六八〇万円)に比して著しく低額であること、⑤売上高に対する広告費の割合(1.07パーセント)が原告(0.03パーセント)に比して高率であるため、顧客等に中元、歳暮時期にカレンダー、粗品をサービスしていることも考えられ、掛売顧客、配達先が多数あることを窺わせること、Bには、①自家製の惣菜を販売していること、②売掛金が原告に比して多額にあること、③従業員一人当たりの売上高(約五九三万円)が原告に比して低調であることの各事情があるから原告との類似性があるとはいえない旨主張する。
そこで、検討するに、先ずAの売上高は、別表二の(一)、(二)、同三によると、原告の売上高に対し、昭和四三年分が約59.46パーセント、昭和四四年分が約55.96パーセントに達しており、その営業規模は、原告主張のように原告の半分以下ではなく、なお類似性ありとみてよいし、Aの青色申告決算書(前掲乙第六号証の一、二)の減価償却資産欄には砂糖ケースの記載があるが、このことからAが砂糖の計り売りを対面販売で行つていたとまでは推認し難いうえ、仮にそうであるとしても、証人益井一昭の証言及び原告本人尋問の結果によると原告店舗においても鮮魚の対面販売を行つていたのだから、砂糖の計り売りの事実がAと原告との類似性認定を阻害する事情とは認められない。更に、原告本人尋問の結果によると原告店舗においても相当数の掛売りがあつたと認められるのであるから、Aの昭和四三年分青色申告決算書(前掲乙第六号証の一)に期末売掛金として三六〇万〇二一二円が計上されているからといつて、Aがスーパーマーケット方式を採つていなかつたとか、原告との間にその他の業態の質的差異があるとまではいい難い。また、従業員一人当たりの売上高については、原告の主張は、昭和四三年に原告店舗で稼働していた者が原告・原告の妻・一昭その他三名の従業員の合計六名しかいなかつたことを前提にしているが、同年分に係る本件現金出納帳(<証拠>)によると、その他従業員として給料を支払われていた者が毎月五ないし六名いたことが認められ、これに反する証人益井一昭の証言は措信できないから、原告の昭和四三年分の一人当たりの売上高は約四五四万円ないし五一一万円となるのであつて、そうであるならばAの約四〇五万円ないし四八六万円と対比して特段の差異があるとはいい難いし、Aの広告費は、前掲乙第六号証の一によると売上高に対する広告宣伝費の割合が昭和四三年分で1.07パーセントであることが認められるが、このことから直ちにAが多数の顧客にカレンダー、粗品をサービスしていたとまでは推認できず、他にこれを認めさせるに足りる証拠はない。
また、Bの売掛金は、昭和四三年分が原告の約1.16倍、同四四年分が約1.12倍で営業規模の類似性も肯定できるし、従業員一人当たりの売上高に関する原告の主張も、Aの場合と同一の事情により理由がなく、Bの青色申告決算書(<証拠>)の減価償却資産欄に揚物器と惣菜ケースの記載があるとはいえ、Bが自家製の惣菜を販売していたか否かは推測の域を出ないことに加え、仮に自家製の惣菜を販売していたとしても売れ残り等のロスをも考慮すると、一般的に差益率が上昇するとは一概にいえないというべきである。
したがつて、原告とA、Bとの類似性があるとはいえないとする原告の主張は採用できない。
4 更に、原告は、原告には本件平均差益率の適用を排除すべき営業上の特殊事情として、①坂の途中の人口密集地でない場所での立地、②主要顧客層が低所得のサラリーマン世帯、③近隣における競合同業者の存在、④一昭の経験不足、原告の妻の病気、⑤スーパーマーケット形式への切り替えによる影響が存した旨主張する。
しかしながら、原告店舗が坂の途中の人口密集地とはいえない場所に立地していることは、売上高に影響を及ぼすとはいえても、差益率を低下させるものか否かは明らかでなく、立地条件が差益率にまで影響する特段の事情の主張・立証は何らなされていない。また、原告の主要顧客層がサラリーマン世帯であるとしても(低所得であると認めるに足りる証拠はない。)、原告が主張する利益率の高い高級食料品の需要が低くて、価格監視が厳しく、かつ、加工製品について大メーカー指向が強いなどという事情は、スーパーマーケット形式による食料品小売業者一般に通じる問題なのであつて、主要顧客層がサラリーマン世帯であることが本件平均差益率の適用を排除すべき特殊事情であるとはいい難い。更に、競合同業者の存在については、<証拠>によると、昭和四三、四四年ころに、原告店舗から遠からぬ場所で食料品を販売する商店として「スーパー五十嵐」、「花月センター」、「ホームスーパー」、「亀井商店」、「菅原商店」、「白石商店」、「秦商店」があつたが、そのうちスーパーマーケット形式であつたのは「スーパー五十嵐」と「ホームスーパー」だけであり、この両者は原告店舗から徒歩一〇分位のところにあつたことが認められるのであるから、右各商店の営業形態の相違、原告店舗からの距離に鑑みると、右各商店は、いずれも原告の差益率に著しい影響を与える競合関係に立つていたとは考えられない。なお、原告は、「菅原商店」の経営者が北見営林局購売部売店においても生鮮食料品を販売していたため、同売店で販売する安い価格が「菅原商店」でも設定され、原告の差益率に影響した旨主張するが、<証拠>によると、北見営林局購売部売店で生鮮食料品が販売されるようになつたのは昭和四五年からであることが明らかであるから、仮に「菅原商店」が北見営林局購売部での販売価格と同一の価格で生鮮食料品を販売したとしても、それは原告の本件係争各年分の営業には全く影響しなかつたものと認められ、これに反する<証拠>はにわかに信用し難い。
次に、一昭は生鮮食料品の仕入れ等の経験年数が浅いとはいえ、<証拠>によると本件係争各年分の初めまでにはすでに一〇か月の経験を積んでいたのであり、また、原告本人尋問の結果によると原告店舗は昭和三〇年代前半から営業していたのだから、原告の妻が本件係争各年分は病気がちで一般食料品等の仕入れ交渉などを十分に行わなかつたとしても他店に比して特に不利な仕入価格を余儀なくされていたとは考えられず、原告が不在がちであつたことを考慮しても、いずれも特別の事情であるとまでは認められない。最後にスーパーマーケット形式への転換の影響については、<証拠>によると、Gの昭和四四年分の差益率は同年七月に営業形態をスーパーマーケット形式に切り換えたため低下し、翌年分の差益率は上昇に転じたことが認められるところ、原告がスーパーマーケット形式に転換したのは昭和四二年七月であることは当事者間に争いがないのであるから、スーパーマーケット形式への転換による差益率の影響があるとすれば昭和四二年分について生じたものと考えられる。しかるに、<証拠>によると、原告は昭和四二年分の所得税について、同業者A、B、Dの平均差益率を基準とした被告の修正申告の慫慂に応じていることが認められるから、スーパーマーケット形式への転換は原告の差益率に殆ど影響がなかつたことになる。なお、原告本人は、昭和四二年分の修正申告に応じたことについて、原告の営業実績を反映したものではなく、本件係争各年分について直ちに更正処分に及ばないことを条件に被告所部係官と取引をしたかのような供述をするが、にわかに措信し難く、他に右供述に副う証拠はない。
したがつて、原告の主張する特殊事情は、いずれも本件平均差益率を被告に適用することを不合理ならしめるものであるとは認められず、原告の主張は失当というほかはない。
5 以上認定したとおり、被告の推計方法は合理的なものということができるから、本件係争各年分につき、前記のとおり認定した売上金額に本件平均差益率を乗じて計算すると、被告主張のとおり、差益金額は別表二の(一)、(二)の番号2記載の各金額になることは明らかである。
そうすると、本件各更正はいずれも別表二の(一)、(二)記載の総所得金額の範囲内でされたものであるから、所得を過大に認定した違法はないというべきであり、本件各更正を前提としてされた本件各賦課決定にも何ら違法はない。
六なお、原告は、本件各更正に対する異議についての棄却決定に理由附記不備の違法があり、本件各処分も違法と評価されるべきである旨主張するが、異議棄却決定に理由附記不備の違法がある場合はその瑕疵を理由に右決定自体の取消しを求める訴えを提起することができ、更正処分と異議棄却決定とは別個独立の処分であるのであるから、異議棄却決定の瑕疵を理由に更正処分の取消を求めることはできないばかりでなく、仮に右の異議棄却決定につき理由附記不備の違法があつたとしても、その一事をもつて本件各処分が違法と評価されるものでないことは明らかであるから、原告の主張は理由がない。
七よつて、原告の本訴請求はいずれも理由がないからこれを棄却することとし、訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法七条、民事訴訟法八九条を適用して主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官佐藤康 裁判官加藤新太郎 裁判官大熊一之)
別表一
年分
区分
年・月・日
総所得金額(円)
過少申告加算税(円)
昭和四三年
確定申告
法定申告期限内
五三万五七四一
─
更正・賦課決定
四六・三・二六
二七四万八八八四
二万六二〇〇
異議決定
四七・二・一〇
棄却
審査裁決
五〇・一二・二四
二一八万三四八七
一万七四〇〇
昭和四四年
確定申告
法定申告期限内
四八万二七八五
─
更正・賦課決定
四六・三・二六
一七六万六一六八
一万一二〇〇
異議決定
四七・二・一〇
棄却
審査裁決
五〇・一二・二四
棄却
別表二の(一)
(昭和四三年分)
番号
項目
金額(円)
備考
1
売上金額
四〇八五万八八〇四
雑収入一六万三三五〇円を含む
2
差益金額
六三七万八〇五九
1×平均差益率(15.61%)
3
経費
イ一般経費
一八七万一五九一
ロ特別経費
一八二万五八三六
4
事業専従者控除額
一五万
5
事業所得金額
二五三万〇六三二
2-3-4
6
不動産所得金額
八万四一三六
7
給与所得金額
一万四〇八〇
8
総所得金額
二六二万八八四八
5+6+7
別表二の(二)
(昭和四四年分)
番号
項目
金額(円)
備考
1
売上金額
五〇三三万一七九八
雑収入三二万五五五三円を含む
2
差益金額
七八四万一六九四
1×平均差益率(15.58%)
3
経費
イ一般経費
二六七万四八一三
ロ特別経費
一八六万五〇七一
4
事業専従者控除額
三〇万
5
事業所得金額
三〇〇万一八一〇
2-3-4
6
不動産所得金額
九万七一四八
7
給与所得金額
一万〇〇八〇
8
譲渡損失金額
一四万二三三三
9
総所得金額
二九六万六七〇五
5+6+7-8
別表三
氏名
(法人名)
年区分
(事業年度)
売上金額
(雑収入を含む)(円)
差益金額
(円)
差益率
(%)
取扱の有無
酒類
煙草
A
四三年
二四二九万四七〇九
三七九万一八一〇
15.60
有
有
四四年
二八一六万六九五八
四四五万七七〇九
15.82
B
四三年
四七四四万九五〇四
七四一万六九九七
15.63
有
有
四四年
五六一四万二一五九
八六一万八五七二
15.35
C
四三年
二四五六万五三六一
三〇三万一五七六
12.34
有
有
四四年
二七四七万二五六九
三五七万二三〇六
13.00
D
四三年
三一四六万二三五九
五九〇万七二八八
18.77
有
無
四四年
三七五四万四七二八
五七八万八〇六六
15.41
E
四三年
三七五三万五七四六
四三九万四八二五
11.70
有
有
四四年
四四五一万七五四七
五〇九万四〇八二
11.44
F
四三年
三四六三万三七二九
五六九万八七四七
16.45
有
有
四四年
三四四九万六二二三
五七六万一五七八
16.70
G
四三年
一六七二万六八五三
三二五万九八三一
19.48
有
有
四四年
一九七七万七九〇七
二六五万六〇三六
13.43
H
(法人)
四三・三・ 一
四四・一・三一
一億〇一八八万三六七七
一六七二万七四四〇
16.41
有
有
四四・二・ 一
四五・一・三一
一億四六七二万三三九一
二二七三万三七六一
15.49
A、Bの平均差益率
昭和四三年分 15.61%
昭和四四年分 15.58%
別表四の(一)
(昭和四三年分)
番号
項目
金額(円)
備考
1
売上金額
四〇八五万八八〇四
雑収入一六万三三五〇円を含む
2
期首棚卸金額
二一五万九二四〇
3
期末棚卸金額
二八八万四〇七〇
4
仕入金額
三七二七万〇八六六
5
差益金額
四三一万二七六八
1-(2+4-3)
6
経費
イ一般経費
一八七万一五九一
ロ特別経費
一八二万五八三六
7
事業専従者控除額
一五万
8
事業所得金額
四六万五三四一
5-6-7
9
不動産所得金額
八万四一三六
10
給与所得金額
一万四〇八〇
11
総所得金額
五六万三五五七
8+9+10
別表四の(二)
(昭和四四年分)
番号
項目
金額(円)
備考
1
売上金額
五〇三六万三六九三
雑収入三二万八七三〇円を含む
2
期首棚卸金額
二八八万四〇七〇
3
期末棚卸金額
三五一万六二四〇
4
仕入金額
四五四四万六一四八
5
差益金額
五五四万九七一五
1-(2+4-3)
6
経費
イ一般経費
二六七万四八一三
ロ特別経費
一八六万五〇七一
7
事業専従者控除額
三〇万
8
事業所得金額
七〇万九八三一
5-6-7
9
不動産所得金額
九万七一四八
10
給与所得金額
一万〇〇八〇
11
譲渡損失金額
一四万二三三三
12
総所得金額
六七万四七二六
8+9+10-11